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 半額販売詐欺

                                   更新 2021/12/28(火)                                      (C)文責 炭本 治之    広い駐車場のある大型店の店先で,小柄なじいさんが,豚バラの角煮,鳥レバーの煮付け,豚の耳, ザーサイ,もちなどを販売している。売っているのはどれも長期保存の利くものばかりだ。  値段がやけに高い。鳥レバーなんて生肉で買えば100gあたり40〜80円なのに,じいさんの売る煮付け は,1パック(150g)で450円もする。 どの商品も,そこらへんのスーパーで買えばもっと安く買えるものばかりだ。  だから,値段を見て,  「これは到底買えないな」 と判断して,その店の前を通り過ぎることになる。  その日,大型店で必要な商品を選んでレジで会計を済ませ,大型店を出たときには,外は暗くなって いた。  例のじいさんの店では,お祭りの屋台のように煌々と電球が輝いていて,お客で人だかりができていた。  その理由はすぐに分かった。「半額」と大きな文字の掲示板が出ていた。 20代くらいの若い女性を含む3人のお客が,豚バラの角煮,鳥レバーの煮付けやらを5パックも購入して, 嬉しそうな顔をしていた。  商品が売れ残っていて,じいさんは店じまい前の安売りを開始したのだ。  半額でも,あの価格では決して安いとは言えない。 しかし,半額で買える機会はそうあるものではない。どんな味つけなのか興味がある,それに, 商品が売れ残って困っているじいさんには協力してあげるべきだ,と思った。  鳥レバーの煮付けのパックを手にとって見ていると,店の横の方にいた大柄の男, 身長は185センチくらいで体重は120キロくらいありそうな大男が,低い声で話しかけてきた。  「その煮つけは食べ応えがあって旨いぞ」  別のパックを手に取ると,またその大男が声をかけてきた。  「それはザーサイ。酒のつまみにして旨いぞ」  ちょっと気味が悪い。   この男は客ではないし店員でもなさそうだ。  その立場不明な男が横で見ていて話しかけてくる。  私は,鳥レバーの煮付け(450円),豚の耳(450円)を手にとって,合計で450円+税だと思って, じいさんに「これください」と言って手渡した。  じいさんは,それぞれのパックをポリエチレンの透明は袋で包み込んで,手渡した。 そして次のように言った。  「972円です。」  私はびっくりして「エッ」と口走った。  じいさんは,ニコニコしながら,金額表示を指差して,  「これは半額になった金額ですよ」  私は「それなら買わない」と拒否できなかった。  私は既に「買う」と意思表示していた。販売金額を確認していなかった。  それにすぐ横では,あの不気味な大男がいた。  確かに,その大男は,脅迫めいた発言をしたわけではない。  しかし,そんな男がいるだけで気味が悪いのだ。  その男は,客が店主の請求額に同意して当然だという雰囲気を確かに作っていた。 (続く) ページの先頭へ